新しい認知症診療の幕開け
新しい認知症の治療薬レカネマブ(販売名:レケンビ点滴静注)が2023年8月日本で承認されました。
その薬の対象となる効能又は効果は「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」となっています。
また投与にあたっては最適使用推進ガイドライン(令和5年12月厚生労働省)に基づいて、投与対象患者、使用できる医師・医療機関の要件が定められているため、実際に投与される患者数は限定的になると推計されています。(現状では限られた施設のみ投与可能で、当院では投与できません)
【参照・引用】
厚生労働省HP レカネマブ(レケンビ®点滴静注)について
軽度認知障害(MCI : mild cognitive impairment)(※1)の診断がますます重要です
上述したように、今後「アルツハイマー病による軽度認知障害と軽度の認知症」の患者様の診断が重要となり、「軽度認知障害」に対する関心が高くなってきています。
この「軽度認知障害」に診断には、専門的な知識を必要とします。
1.まず以下の疾患や状態の除外や鑑別を行います
- せん妄やうつ病といった精神疾患
- 特発性正常圧水頭症や脳腫瘍、慢性硬膜下血種といった脳の病気
- 甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症など認知機能低下をきたす内科的な疾患
2.軽度認知障害とは?
認知機能が低下した状態には、正常でも認知症でもない状態が存在します。
このような正常と認知症の境界を表す代表的な概念として「軽度認知障害」があります。
3.代表的な診断基準によると
- 本人や家族(情報提供者)、医師(臨床家)などが以前の水準から認知機能の低下を自覚している(指摘している)こと
- 認知症ではないこと(社会的、職業的に支障がない)
- 認知機能(記憶、遂行機能、注意、言語、視空間認知)が1つ以上に障害があること
以上により診断されます。
認知症では、日常生活が単身で行えないことが診断のポイントとなります。
この日常生活活動(ADL:activities of daily livingの略)は、基本的なADL(食事、トイレ、更衣、入浴、移動など)と手段的ADL(買い物、金銭管理、炊事、電話や交通機関の利用、服薬管理など)に分けられます。
軽度認知障害では、複雑な日常生活活動である手段的ADLが以前より少し時間がかかったりミスをしたりすることはあるが、努力や工夫で自立して行うことが可能な状態と考えられます。
当院は、認知症専門医と精神科専門医を有する医師が認知機能の低下や日常生活の活動状況などを詳細に診察いたします。
その上で頭部CT検査や血液検査、心電図検査、認知機能検査を行い総合的に診断します。
(※1)軽度認知障害は新しい診断基準(DSM-5/DSM-5-TR、ICD-11)では「mild neurocognitive disorder(mild NCD)」と記載されています。また軽度認知障害の概念や診断基準は改変が行われており、本稿ではわかりやすく解説するため理解を損なわない程度で一部変更を行っております。ご了承ください。
【参照・引用】
- 講座 精神疾患の臨床5「神経認知障害群」(編集:池田 学)中山書店 2023年5月25日
- 日本認知症予防学会監修 軽度認知障害(MCI)診療マニュアル(監修:一般社団法人 日本認知症予防学会)中外医学社 2023年9月30日